コンセプト
世なおしは、食なおし。
では、なぜ情報誌なのか。それは、分断された生産者と消費者を情報でつなぐことが、一次産業再生のカギだと考えたからです。
大量生産したモノを消費する現代、食べものもモノとして左から右に流されています。消費者は値札を見て食べものの価値を計る。大量に安く生産する「効率性」が、家電製品同様に食べものづくりの世界にも求められます。本来、命(自然)とは人間の計算通りにいかないという点で、非効率から逃れられないもののはずなのに。雨が降らなければ作物は育ちませんが、人間は雨を降らせることができないのです。
結果、一次産業は、買い叩かれてきました。値段が下がるから大量に生産する他なく、効率性を追求する過程で手間ひまを省いてきた。
しかし、それではいいものができません。背景を知らない消費者は値段で判断し、それを口にしています。こうした生産者と消費者の不健全なサイクルから脱するためには、両者が直接つながることで消費社会を乗り越えていくことが必要です。
食べものを命として生産者から消費者にリレーしていく。そのためには、まずは非効率な部分も含めた食べものづくりの背景、価値を消費者に知ってもらい、認めてもらうことが大事です。私たち東北食べる通信は、そうした背景に迫り、特集した生産者が育てた食べものを一緒に届ける。今までになかった「食べもの付きの情報誌」によって、生産者と消費者の分断を解決していきたいと考えています。
つくる人と食べる人をつなぐ
狙いは、生産者の課題解決だけではありません。
「つくる」と「食べる」がつながったとき、生産者と消費者は互いの強みと弱みを補完し合い、支え合い、高め合うことで、幸福感や充足感を得られる新たなコミュニティをつくりだすことができると私たちは考えています。
消費者は、生産者と直接つながることで、食の安心・安全を確保できる。夏休みに子どもを連れて生産者に会いに行き、土をいじり、波にゆられる。心と体を自然の中に解き放ち、食べものをつくるプロセスの一部に関わることで、自分の中にある命が喜ぶ感覚を呼び覚まし、「生きる」を取り戻していく。また、自分が認めたいい食べものを購入し、友人や同僚にインターネットを活用して伝え、広げるという「参加」の形で、社会を主体的につくっていく側に回っていく。
都市と地方をかきまぜる
消費社会では、食べものにとどまらず、暮らしの快適さや安心・安全、生きる楽しさ、地域づくりをも貨幣に置き換え、購入や納税することでなんでも手に入れることができました。便利で楽な世の中ですが、作り手と受け手の距離が遠くなる。自分たちで知恵をしぼり、創意工夫を発揮し、足りない力を補い合いながら、新しくつくりあげる喜びにも欠けていました。
消費社会が隅々まで広がった大都市で、生きがいややりがいを喪失してしまった人がたくさんいます。満ち足りているようで何かが足りない。東日本大震災後の被災地では、高齢化や過疎など、この国が震災前から抱えていた構造的課題と共に、都市が失ってしまった助け合いの精神などの価値が露わになりました。東京で居場所と出番を探しあぐねていた若者たちがボランティアで訪れ、復興支援を通じて自らの「生きる」を復興していく。そして、その場が心の寄りどころとなる「第二のふるさと」になっていく。そんな姿を各地で目にしました。
私たち東北食べる通信は、都市と地方をかき混ぜることで、双方行き詰まった日本に心躍る新たなフロンティアを開墾していきたい。都市に暮らす都人(まちびと)と地方に暮らす郷人(さとびと)が共通の価値観で結び合い、混じり合い、地図上にはない新しいコミュニティをつくりあげていく。
その旗を東北から立て、人間の命と心をすり減らす消費社会に真っ向勝負を挑みます。
プロフィール
三代目編集長 阿部正幸(あべ まさゆき)
1982年、北海道札幌市生まれ。2012年、東日本大震災の復興支援ボランティアに参加したことをきっかけに岩手県に移住。教育系NPOを経て、2013年の「東北食べる通信」立ち上げに参画。依頼、7年に渡って裏方として生産者コーディネート、発送、システム開発などの裏方仕事を一手に担う。2019年に独立し、岩手県大船渡市に移住。三陸を拠点に各地の生産者支援や、NPO運営に携わる。2022年1月号より「東北食べる通信」へ復帰し三代目編集長に就任。地域や社会の課題に、一次産業という手段で取り組む生産者を追いかけている。春には漁船に乗りワカメ収穫をする日々。
プロフィール
二代目編集長 成影沙紀(なるかげ さき)
1990年、京都府宇治市生まれ。2014年、北海道大学農学部の学生時代前編集長・高橋博之(現・代表理事)に出会い、東北食べる通信の読者となる。学生時代は東日本大震災の被災地に通っており、福島原発事故によって避難指示区域に指定された福島県南相馬市のコメ農家との出会いで東北の一次産業の課題解決に身を投じたいと思う。一年間の東京でのサラリーマン生活を経て、2017年4月に東北開墾に入社、以降東北食べる通信で取材する生産者の探索や記事執筆を行った。2019年5月、二代目編集長に就任。生産者の元に通って徹底的に寄り添い、彼らの本質を見出すことをモットーに取材をしている。
プロフィール
初代編集長 高橋博之(たかはし ひろゆき)
株式会社雨風太陽・代表取締役CEO 「東北食べる通信」・初代編集長
1974年、岩手県花巻市生まれ。2006年、岩手県議会議員補欠選挙に無所属で立候補し、初当選。2011年に岩手県知事選に出馬するも次点で落選。2013年、NPO法人東北開墾を立ち上げ、食べもの付き情報誌「東北食べる通信」編集長に就任。2014年、一般社団法人「日本食べる通信リーグ」を創設。2016年、農家や漁師から直接、旬の食材を購入できるスマホアプリ「ポケットマルシェ」サービス開始。2022年、株式会社ポットマルシェは株式会社雨風太陽に名称変更。
著書:
『人口減少社会の未来学』
『だから、ぼくは農家をスターにする ―「食べる通信」の挑戦』
『都市と地方をかきまぜる ―「食べる通信」の奇跡』
『共感資本社会を生きる 共感が「お金」になる時代の新しい生き方』